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毎年3月に行われる「世界睡眠デー」は、睡眠の大切さについて世界規模で啓発するイベントです。日本でもこの日に合わせて様々なキャンペーンや取り組みが実施されており、特にいびきや睡眠中の無呼吸に注意を喚起する活動が目立ちます。睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、大きないびきを伴う睡眠中の無呼吸発作が特徴で、放置すると日常生活や運転時に重大な危険を招きかねません。本記事では、日本における世界睡眠デーの具体的な活動内容を紹介するとともに、SASのリスクとスクリーニング検査の有用性について解説します。
世界睡眠デーとは?
世界睡眠デー(World Sleep Day)は、2008年に世界睡眠学会(現在のWorld Sleep Society)によって制定された国際的な啓発デーです。毎年春分の日の前の金曜日に設定されており、その年ごとに日付が変わります。例えば2025年は3月14日(金)が世界睡眠デーにあたります。この日は世界各国で睡眠に関するキャンペーンやイベントが展開されています。年々その規模は拡大しており、日本においても睡眠に関する取り組みへの関心が高まっており、近年はSNS上で「#WorldSleepDay」のハッシュタグが連続してトレンド入りするなど、多くの人々の注目を集めています。
世界睡眠デーのテーマ(スローガン)は毎年設定されており、たとえば2023年は「Sleep is Essential for Health(睡眠は健康に不可欠)」が掲げられました。このように世界的にも睡眠の質と健康との関連性が強調されており、日本でも同様の認識が広がりつつあります。
日本における「睡眠の日」と睡眠健康週間

日本では世界睡眠デーに近い時期に、独自の「睡眠の日」が定められています。公益財団法人精神・神経科学振興財団の睡眠健康推進機構(日本睡眠学会と共同設立)によって、3月18日が「春の睡眠の日」、9月3日が「秋の睡眠の日」と制定されています。3月18日は春分の日に近く、9月3日は「ぐっ(9)すり(3)」の語呂合わせで選ばれました。それぞれの睡眠の日を中心とした前後1週間は「睡眠健康週間」と位置づけられ、全国各地で市民向けの睡眠に関する講座や相談窓口の開設など、啓発活動が集中的に行われます。こうした活動を通じて、国民の生活の質(QOL)向上や規則正しい生活リズムの確立を目指す運動が展開されています。
日本では慢性的な睡眠不足が大きな課題となっており、日本人の平均睡眠時間は7時間22分と加盟国中最も短く、各国平均(8時間28分)より1時間以上も少ないという結果が出ています。この「世界一の睡眠不足国」とも言われる日本において、睡眠の日や世界睡眠デーの活動は、睡眠習慣を見直す良い機会となっています。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは?

睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠中に呼吸が何度も止まる疾患で、多くの場合激しいいびきを伴います。具体的には、一晩の睡眠中に10秒以上の呼吸停止(無呼吸)や低呼吸(浅い呼吸)が繰り返し発生し、深い眠りが妨げられる状態です。
SASの主な症状としては、睡眠中のいびき・無呼吸発作のほか、日中の強い眠気、起床時の頭痛、熟睡感のなさ、集中力の低下などが挙げられます。患者本人は眠っている間の無呼吸に気づきにくいため、「単に疲れているだけ」「いびきは体質だから仕方ない」と見過ごされがちですが、実は深刻な健康リスクを孕む病気です。
SASの主な原因は、喉や気道の閉塞です。肥満、加齢、顎の形状、アルコール摂取などが影響を与えます。また、SASは高血圧、心疾患、糖尿病などの生活習慣病とも関連が深く、適切な治療を受けなければ命に関わる合併症を引き起こすリスクがあります。
特に運転中のSASのリスクは深刻であり、居眠り運転による交通事故を引き起こす可能性が高くなります。実際に、SAS患者が居眠り運転をして事故を起こす確率は健常者の数倍にも上るとされています。
SASは自覚症状が少ないため、スクリーニング検査による早期発見が重要です。簡易検査で無呼吸の有無を調べ、必要に応じて精密検査を受けることで、適切な治療を開始できます。日常生活の質を向上させるためにも、いびきや無呼吸に心当たりがある方は、ぜひスクリーニング検査を受けることをおすすめします。
SASのスクリーニング検査の重要性
SASの診断には、まず簡易スクリーニング検査が推奨されます。この検査では、自宅で指先のパルスオキシメーターを装着し、一晩の血中酸素濃度や脈拍を測定することで、無呼吸の可能性を評価できます。簡便で負担が少ないため、いびきや日中の眠気を感じる方には特に有用です。
スクリーニング検査でSASの疑いがある場合は、専門医による終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)を行い、より詳細な診断を受けることが重要です。適切な治療を受けることで、SASによる健康リスクを軽減し、生活の質を大きく向上させることができます。
SASは、放置すると健康に深刻な影響を及ぼすだけでなく、交通事故や労働災害のリスクを高める要因にもなります。早期発見・早期治療のために、スクリーニング検査を積極的に活用しましょう。
まとめ
「世界睡眠デー」を含む睡眠啓発の取り組みは、日本において年々活発化しており、その中でいびきや無呼吸に代表される睡眠時無呼吸症候群(SAS)への注意喚起は重要なテーマとなっています。良質な睡眠は健康な生活の基盤であり、慢性的な睡眠不足や睡眠障害を放置すると、本人の身体・精神に支障をきたすだけでなく、交通事故や労働災害といった社会的なリスクにも波及します。 幸い、睡眠に関する正しい知識と対策法は数多く確立されており、SASについても検査・治療の体制が整っています。世界睡眠デーや睡眠の日のキャンペーン事例に見られるように、企業や医療機関、行政が一体となって「いびきや無呼吸を放っておかず、きちんと対処しよう」というメッセージを発信しています。
質の良い睡眠は、明るい毎日と健やかな未来への第一歩です。世界睡眠デーのスローガンにならって、今日からぜひ「より良い睡眠、より良い生活」を実践していきましょう。